離婚に伴う3つの問題
離婚することによって夫婦の婚姻関係は解消されますが、離婚に際して解決すべき問題はたくさんあります。
法律上、離婚と同時に決めなければならないことは、未成年の子がいる場合の親権者です(民法819条1項)。
しかし、実際に離婚するとなると、主に3つの問題を解決しておく必要があります。
離婚に伴う3つの問題 | |
1 お金の問題 | 夫婦の共有財産の清算、慰謝料、年金分割など |
2 子の問題 | 親権者、養育費、面会交流など |
3 戸籍と名字(氏)の問題 | 結婚で名字(氏)を改めた人の戸籍と名字(氏) |
お金の問題
離婚に際しては、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産や共有していた財産を清算する必要があります。
そして、離婚にいたるまでの夫婦の状況によって異なりますが、離婚で精神的損害を受けた場合には、離婚原因を作った側の配偶者に対して慰謝料を請求することもできます。
また、婚姻期間中の年金記録を分割することができる年金分割についても検討する必要があります。
財産分与の問題 | 婚姻期間中に築いた共有財産がある場合 |
慰謝料の問題 | 相手が離婚原因を作った場合 |
子の養育費の問題 | 未成年の子がいる場合 |
年金分割の問題 | 婚姻期間中の年金記録がある場合 |
子の問題
未成年の子の親権者以外にも、子についての問題はあります。
離婚後にどちらが子を引き取るか、離婚後の養育費についても解決しておく必要があります。
また、離婚後に子を引き取らない方の親が子と交流する方法(面会交流)なども決めておかなければなりません。
戸籍と名字(氏)の問題
婚姻中は夫婦の戸籍は1つですが、離婚によって夫婦関係が解消されると、婚姻によって名字(氏)を改めた方が、その戸籍から出ることになります。
結婚で名字(氏)を改めた方の配偶者は、離婚後の戸籍と名字(氏)について考える必要があります。
目次
財産分与とは
財産分与とは、離婚に際して、婚姻中に築いた夫婦の共有財産を清算することをいいます。
財産分与には、次の4つの要素を含んでいるといわれます。
財産分与に含まれる要素 | |
清算的財産分与 | 婚姻期間中に夫婦の協力で築いた共有財産の清算 |
扶養的財産分与 | 離婚後の生活に不安が生じる場合にもう一方が経済的に支援 |
慰謝料的財産分与 | 離婚による精神的損害の賠償 |
過去の婚姻費用の清算 | 離婚までの婚姻費用(生活費)の清算 |
(1)清算的財産分与(夫婦の共有財産の清算)
夫婦は共同生活をしている間、協力して一定の財産を形成します。夫又は妻の名義になっている財産でも、夫婦が協力して築いた財産であれば共有財産と考えられ、離婚の際に貢献の割合に応じて清算されるのが通常です。
この共有財産の清算が財産分与の中心であり、一般的には婚姻生活が長いほど金額も多くなります。
(2)扶養的財産分与(離婚後の弱者に対する扶養料)
離婚後の生活に不安が生じる側に、もう一方が経済的に生活をサポートするという目的で、その金額が清算的財産分与に加算されることがあります。扶養的財産分与が認められるためには、自分ひとりでは生計を立てられないという要因が必要です。
(3)慰謝料的財産分与(離婚による慰謝料)
慰謝料とは、不倫や暴力などによって離婚の原因を作った側が、相手の精神的苦痛に対して支払う損害賠償金のことです。共有財産の清算である財産分与の問題と損害賠償である慰謝料の問題は別の問題ですが、財産分与の中で慰謝料の問題を合意することがあります。
この場合、慰謝料が十分でないと認められるケースを除いて、原則として財産分与と別に慰謝料を請求することはできません。
(4)過去の婚姻費用(生活費)の清算
婚姻期間中の婚姻費用(生活費)は、同居・別居にかかわらず、婚姻が継続している間に限って認められるものです。
過去の婚姻費用も裁判所が財産分与の分与割合を判断する際の要素の一つですが、通常は、離婚時の合意か婚姻費用分担調停によって定められます。
財産分与の対象財産
財産分与の対象財産・対象外財産の例 | |
対象となる財産(共有財産) | 現金・預貯金 有価証券(株式・投資信託)
不動産(土地・建物) 会員権 動産(家財道具・自家用車など) 美術品など 生命保険(解約返戻金、離婚前に満期到来したもの) 営業用財産(夫婦が共同して事業を営んでいる場合) 退職金・退職年金(退職までの期間等による) 共同生活のために生じた債務 |
対象とならない財産(特有財産) | 日常生活の範囲内で一方が単独で使用するもの
親から相続した財産、贈与を受けた財産 結婚時に実家から与えられた財産 結婚前から各自が所有していた財産 |
婚姻期間中の夫婦の財産には、電化製品や家具などの家財道具から、預貯金、自家用車、不動産に至るまで、実にさまざまなものが含まれています。
こうした財産のうち、財産分与(清算的財産分与)の対象となるのは、今後にお互いの協力によって築いた共有財産です。つまり、離婚するに際しては、婚姻してから購入した家財道具などのほか、婚姻期間中に夫婦が協力して取得した財産であれば、預貯金、自家用車、不動産、有価証券のように、夫婦の一方の名義になっている財産も清算の対象となります。
逆に、婚姻期間中は夫婦で使用していた財産であっても、結婚前から各自が所有していた財産や婚姻期間中に相続したり、贈与を受けたりした財産など(特有財産)は、原則として清算の対象にはなりません。
ただし、扶養的財産分与や慰謝料的財産分与が行われる場合などには、夫・妻それぞれの特有財産を相手に譲渡することもあります。
財産分与について話し合う前に、共有財産をピックアップしてリストを作成しておくとよいでしょう。詳細なリストを作成しておけば、より具体的な話し合いができますし、相談の際にも大いに役立ちます。
財産分与の対象となる共有財産は、現金や預貯金のように一目で金額が分かるものだけとは限りません。たとえば、不動産、家財道具、自家用車などのように共有財産の中には分割できない財産や、どちらがもらうかを決められない財産が多く含まれているのが普通です。こうした財産を現物で分け合うことができるのなら問題はありませんが、うまく分けられない場合には、個々の財産の価値を金額に換算する必要があります。その財産の評価価格を算出し、現金や預貯金との合計額を出したうえで、お互いが納得できる分け方を考えることになります。
また、有価証券や不動産などのように、時期によって価格が変動する財産の場合には、その財産を評価する時期も大きな問題となります。財産分与は夫婦が共同生活をしている間に形成した財産の清算ですので、財産の評価時期の基準は、夫婦の共同生活が終了した時、すなわち別居時点となり、離婚まで同居していた場合には離婚時点となります。
財産分与の方法
財産分与の割合は基準が定められているわけではなく、それぞれの家庭の事情に合わせて、ケース・バイ・ケースで決めるべきものです。夫婦がお互いに納得すれば、それぞれの清算の割合や金額、財産の分け方(現金や現物で分けたり、不動産を金銭に換算して分けたりするなど)も自由に決めることができます。夫婦の話し合いで決められない場合、家庭裁判所の離婚調停(離婚成立後は財産分与調停)において話し合われることになります。
清算の割合については、夫婦が協力して築いた財産ですから1/2ずつとするケースが多いと思われますが、収入の形態によっては、清算の割合を1/2以外にするケースもあるようです。
一方が専業主婦(又は主夫)であっても、そのサポートがあって共有財産が築かれたのですから、目に見える収入はなくても夫(又は妻)が得た収入は共有財産として評価され、原則として1/2ずつで分与することになります。
共働きの夫婦の場合は、医師など特殊な資格や能力により収入を得る場合のように、収入に対する他方配偶者の寄与を50%とみることに疑問がある場合を除いて、1/2ずつと考えるのが原則です。なお、共同生活に必要な費用だけを収入に応じて按分し、残りの収入をそれぞれ自分名義の財産としていた場合には、各自の財産をそれぞれ自分のものにするというケースもあります。
夫婦で事業を営んでいる場合には、それぞれが従事していた内容を具体的に検討・評価したうえで、清算の割合を考えることになります。実際の裁判では、共働き夫婦の場合と同じように、1/2ずつとするケースが多いようです。
現物で分ける場合の注意点としては、自家用車や不動産などのように、名義の変更が必要になる財産を分ける場合には、その財産の名義を確認しておかなければなりません。また、ローンが残っている財産受け取る場合には、債権者との話し合いも必要です。
現金で分ける場合の注意点としては、預貯金や有価証券などのように、すぐに現金化できる財産が対象になっているときは、できるだけ一括払にするべきです。分割払にすると、支払う側の経済力や性格も関係してきますが、離婚後に支払が滞るということも十分に考えられるからです。どうしても分割払の方法しかとれないという場合には、頭金や第1回目の支払金額を多くし、支払金額もできるだけ短く設定するようにしましょう。
また、協議離婚の場合には、支払方法や金額などの取り決め事項を、必ず「離婚協議書」や「公正証書」などの書面にしておきましょう。特に、支払が長期にわたる分割払では、万一に備える意味からもできれば強制執行認諾文言付きの公正証書にしておくとよいでしょう。仮に、相手が約束どおりに支払わないような場合には、相手の有する財産(預貯金、給与、不動産など)を公正証書に基づいて差し押さえることができます。
不動産の財産分与について
ローン付きの不動産を分与の対象にする場合には、いろいろと面倒な問題や手続があるため、より慎重に分け方を考える必要があります。
まず、実質的な不動産の評価価格ですが、時価が基準となります。不動産鑑定士に依頼して評価をしてもらうことも考えられますが、鑑定費用が必要になりますので、不動産業者に見積もりを作成してもらうこともあります。不動産の取得時の価格を参考に、土地であれば近隣の土地の価格の変動を加味し、建物であれば築年数を考慮して減額する方法をとることもあります。また、固定資産税の評価額や相続税の評価額(路線価)を基準にすることもあります。こうして計算した不動産の時価から、ローン債権の残高を引いて財産分与の対象財産の評価をします。たとえば、時価2500万円のマンションについて、残ローンが1500万円とすると、マンションの評価価格は1000万円となり、これが財産分与の対象となります。
次に、清算の割合に応じて財産分与額を決定します。先ほどのマンションのケースで、清算の割合が1/2ずつとすると、1000万円を2等分した500万円ずつがそれぞれの取り分ということになります。
最後に分け方ですが、一方がローンの残りを負担し、マンションを所有するという方法をとる場合には、相手に財産分与額を支払わなければなりません、先ほどのマンションのケースで夫がマンションを取得する場合には、夫は妻に500万円を支払うことになります。この方法をとるには、マンションを所有する側に資力がなくては困難です。また、ローンの名義人を変更しなければならない場合には、債権者(金融機関など)の承諾を得て、抵当権を設定し直すなどの手続も必要となります。
それ以外の方法としては、不動産を売却し、その代金を分け合うという方法が考えられます。ただし、この場合も債権者との話し合いが必要ですし、都合よく希望する金額で売却できるとは限りません。
また、先ほどの時価2500万円のマンションのケースで、残ローンが3000万円とすると、いわゆるオーバーローン状態であり、マンションの評価価格は0円となります。この場合の分割方法としては、マンションを一方が取得して、取得者が今後のローンを負担する方法や、マンションを売却して売却代金で返済しきれなかったローンを双方で負担する方法が考えられます。
財産分与で不動産を受け取る際には、借地や借家の問題も含めて、次の点に注意する必要があります。
家屋や土地などの不動産を譲渡されたときには、不動産の所有権移転の登記手続をしなければ、第三者に不動産を取得したことを主張することができません。この手続は、権利を譲渡する側と譲り受ける側との双方が合意し、双方の申請によって行われるものです。したがって、不動産を譲り受けることが決まったら、口約束ではなく譲渡者から手続に必要な書類一式を確実に受け取っておく必要があります。
なお、登記手続は複雑で法的な知識も要求されますので、登記に必要な書類が揃っているかどうかのチェックも含めて、登記手続の専門家である司法書士に依頼することをお勧めします。
夫名義で借りていた賃貸マンションやアパートに離婚後も妻が住み続ける場合や、借地上にある建物が財産分与の対象になることがあります。この場合には、借家権・借地権の譲渡が発生し、家主・地主の承諾が必要になるため、家主・地主に離婚することを伝え、名義変更などの手続を行うようにしてください。
(1)扶養的財産分与を請求できる場合
扶養的財産分与は、離婚によって生活に不安が生じる側に対して、もう一方が経済的に生活をサポートする目的で支払うものであり、清算的財産分与や慰謝料とは別に加算される補助的なものです。
扶養的財産分与の額は、頼ることのできる親族の有無や扶養してくれる両親・再婚者の有無、夫婦の収入、婚姻期間、夫婦の年齢、離婚後の生活不安、夫婦の病気、資産などを考慮して決めることになります。支払期間については、就職や再婚などが決まるまでの一定期間をし、一般的には3年程度といわれています。
この扶養的財産分与は、清算的財産分与とは違い、離婚に際して誰もが請求できるという性質のものではありません。例えば、専業主婦だった妻が高齢や病気などの理由で離婚後に就職できる可能性がない場合や、子を引き取って養育することにより本人の経済的な自立が困難になる場合など、一方が離婚後の生活に困窮する要因が必要となります。
さらに、清算的財産分与や慰謝料を請求できない場合や、請求できたとしても離婚後の生計を維持できる額ではないという場合などに限られます。つまり、清算的財産分与で相当な額を受け取れる場合や、離婚後の生活に大きな不安がなければ、扶養的財産分与は請求できないということです。
なお、扶養的財産分与が認められるためには、請求する側の配偶者にその必要性があるだけでなく、請求される側の配偶者に相手を扶養できるだけの経済力があることが前提となります。
(2)慰謝料を請求できる場合
離婚における慰謝料とは、婚姻生活の中で精神的な苦痛を受けた側(被害者)がその原因を作った側(加害者)に対して請求できる損害賠償金のことです。慰謝料は、財産分与とは違い、離婚する際に必ず請求できるという性質のものではなく、相手に離婚に至る原因を作った責任がある場合に限られます。例えば、相手が暴力をふるうとか、不倫をしているなど、責任の所在が明らかな場合に請求することができます。
したがって、性格の不一致や信仰上の対立、親族との折り合いが悪いといったケースなどのように、離婚の原因が夫婦双方にある場合や、どちらかに離婚の責任を負わせるような原因が見当たらない場合には、慰謝料の請求は認められません。
協議離婚の場合には、慰謝料の有無や金額なども夫婦の話し合いで決めることができます。慰謝料には明確な算定方法や算定基準がないため、相手の責任や離婚の原因、自分が受けた精神的ダメージなどを考慮して、相手が支払える金額を請求することになります。
家庭裁判所でも、慰謝料の請求があった場合には、不倫や暴力などの原因、責任の割合、婚姻の期間、資産や収入など、さまざまな要因を考慮して算定しています。裁判で認められる金額は、10万円~1500万円程度と、個々の事情によって大きな開きがあります。
慰謝料を請求する場合には、確実に受け取れる金額かどうかも十分に考慮した上で、できるだけ一括で受け取れるようにしましょう。
年金分割について
年金分割は、離婚した場合に、夫婦の婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度です。具体的には、離婚時の年金分割が行われると、婚姻期間中について、厚生年金の支給額の基となる報酬額(標準報酬)の記録が分割されることになり、年金額を二人で分割できます。
年金分割の方法には2種類あり、合意分割は、当事者の請求により婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を分割する方法であり、分割の割合は合意又は裁判手続によって決まった割合となります。3号分割は、サラリーマンの妻である専業主婦の方など、国民年金第3号被保険者であった方の請求により平成20年4月1日以後の婚姻期間中の厚生年金記録を分割する方法であり、分割の割合は1/2ずつとなります。なお、合意分割の請求が行われた場合、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされます。
年金分割を行うためには、まず、年金事務所で年金分割のための情報通知書を発行してもらう必要があります。また、合意等ができた場合には、年金事務所等に「標準報酬改定請求書(離婚時の年金分割の請求書)」を提出する必要があります。分割の割合が決まっていても請求の手続をしないと年金は分割されません。
財産分与・慰謝料・年金分割の請求期限
財産分与・慰謝料・年金分割は離婚成立後に請求することもできますが、特別な事情がない限り、離婚と同時に解決しておいた方が賢明です。離婚成立後は、財産の所在が分かりにくくなるなどの理由もあり、離婚際に取り決めた場合よりも受け取れる額が少なくなる傾向があるからです。また、離婚後に関係の薄くなった相手と話し合うのは、時間や手間もかかりますし、精神的にも大きな負担となります。
財産分与・慰謝料・年金分割は、それぞれ請求できる期間が決まっています。財産分与は離婚が成立した日(協議離婚なら離婚届が受理された日、調停離婚なら調停成立日、裁判離婚なら裁判が確定した日)から2年の除斥期間(民法768条2項)、慰謝料は離婚が成立した日(損害及び加害者を知った日)から3年の消滅時効(民法724条)が定められていて、その期間を過ぎると請求ができなくなってしまいます。
ただし、離婚するときに「金銭や財産の請求は一切しない」などと約束をしてしまった場合には、この期間内でも請求することはできません。
年金分割も、原則として、離婚が成立した日の翌日から2年を経過すると請求できなくなりますし、既に離婚等が成立し、相手方が死亡した日から起算して1か月を経過すると請求できなくなります。